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上中 康司

潮流

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次なるテーマ株を探せ!~親子上場解消、TOBについて(その2)~

前回、親子上場解消とTOBが今後の市場が注目するテーマになることを説明しました。

今回は、親子上場している企業の抱える問題点について、具体例を挙げた上で掘り下げて解説します。

親子上場の目的と問題点 前回、親子上場により …

前回、親子上場解消とTOBが今後の市場が注目するテーマになることを説明しました。
今回は、親子上場している企業の抱える問題点について、具体例を挙げた上で掘り下げて解説します。

親子上場の目的と問題点

前回、親子上場により少数株主が得られるメリットは少なく、むしろデメリットが大きいということを説明しました。
世界的に見ても禁止している国はない親子上場ですが、東証がかつて結論づけたとおり、資本政策としては望ましいものではありません。
そんな親子上場ですが、必ずしも親会社が甘い汁を吸うために親子上場を行うわけではなく、きちんとした理由から行うケースもあります。
例えば、子会社の成長性が高い場合、資本市場から子会社が資金を調達することで、成長のさらなる加速を狙うケースがそれに該当します。
また、多角化経営によって市場での評価が正当にされていない事業を子会社化し、その上で上場させることで、その事業の正当な評価の獲得と価値の顕在化を目的とするケースもそうです。
また、上場して「上場企業」となることで、社員のモチベーションの向上を図ったり、有能な人材を集めやすくしたりする、という目的をもって上場するケースもあります。
このケースの場合はそれだけが目的ではないのですが、このような「上場企業のブランド」の獲得とそれに伴う副次的な効果を期待し、上場する子会社もあるのです。

しかし実際には、親会社は上場子会社への支配権を強め、子会社のリストラクチャリングを行ったり、子会社の従業員のリストラや給与カットにより営業利益を増加させ、株主価値も増加させる等、親会社に有利な施策を行うケースもあります。
また、子会社の人事に親会社の意向が強く反映されたり、中期経営計画で親会社の方針に従って作成したりという問題もあります。
さらに、決算についても、株主の一人である親会社が子会社の業績を、連結決算を作成する中で知ることができ、さらには重要なリリースについても先に知ることができるため、他の少数株主よりも有利な立場にあるのです。

LOHACOを巡るアスクルとヤフーの対立

このような問題のある親子上場ですが、昨年アスクルとヤフーの対立が報じられました。アスクルの親会社であるヤフーは、アスクル株の45%(議決権ベース)を保有しており、アスクルに対し、同社の通販事業であり今後の成長が期待される「LOHACO」の譲渡を求めたのです。
アスクルはこれを拒否し、ヤフーも一旦は矛を収めたものの、その後、ヤフーの川辺健太郎社長がアスクルの岩田彰一郎社長に退陣を要求しました。
これにより岩田氏はアスクルの社長を退任し、新たに吉岡晃氏が同社社長に就任することとなったのです。

ちなみに、岩田氏を解任する際の理由としてヤフーは、2018年5月期のアスクルの営業利益が半減し、2019年5月期は通期予想を25%下回ったことを挙げています。ただ、2018年5月のアスクルの営業減益は、その前年2月に発生した倉庫火災の影響を受けたものですし、通期予想を下回ったとした2019年5月期は増収増益となっています。
もはや言いがかりのような理由ですが、前述のとおり、岩田氏はアスクルの社長を退任することとなりました。
それだけでなく、ヤフーは議決権行使をし、アスクルの独立社外取締役3人の再任を否決しています。

なお、岩田氏の後を引き継ぐ形で新社長となった吉岡氏は、当初ヤフーとの資本提携を解消するとしていたものの、昨年12月に行われた決算会見で、資本提携の解消は取りやめると発表し、これにより一連の騒動はいったんの収束を迎えました。

アスクルとヤフーを巡る対立のガバナンス上の問題

アスクルの独立社外取締役3人の再任否決は、法的な問題はないものの、親子上場企業のガバナンス上大きな問題があります。
結果的に解任された独立社外取締役の再任については、アスクルの大株主のヤフーと、LOHACOの譲渡に賛成していた第二位の大株主であるプラスの議決権行使を除くと、いずれも賛成が9割を超えていたのです。
ですが、このような少数株主の意見が反映されることはありませんでした。
少数株主の利益を守るために置かれた独立社外取締役が、支配的株主と少数株主との間に利益相反が見られる場合でも、支配株主により再任が阻まれれば、それを正すことができないことが、この事例から分かります。
大株主の顔色を窺わなくてはならず、独立社外取締役としての本来の役目を果たせないどころか、少数株主の利益を保護するための実効的ガバナンス体制の構築ができないという問題があるのです。

LOHACOがヤフーに譲渡されていたら、アスクルはどうなったのか?

なお、ヤフーは、LOHACOをアスクルが手放すことで、アスクルの企業価値が時価総額1,500億円から4,000~5,000億円と、約3倍も向上すると見込んでいたようです。
結局のところLOHACOはヤフーに譲渡されることなく今に至りますが、この事例からも分かるとおり、親会社が子会社の成長事業を取り込もうとするケースは珍しくありません。
ヤフーが仮にLOHACOを自社に譲渡させていたら、アスクルの企業価値はどうなっていたでしょうか。

LOHACOは確かにアスクルの利益圧迫要因になっていましたが、同時に成長が期待される事業でもあります。
そのため、LOHACO事業の売却による収益改善ということで株価が一時的に反応をしても、アスクルの他事業の営業利益が1桁台の成長では、恐らく次なる成長事業がない限り、株価の上昇トレンドは続きにくいでしょう。
市場が強く反応するのは、売上高、営業利益ともに2桁増益となり、さらにはそのトレンドが中長期的に続くと見込まれる場合です。

新興市場株の場合は、成長段階にある企業が多いことから、売上高、営業利益の両方が2桁成長というものも珍しくありません。
ただ、アスクルの場合、過去15期分のキャッシュフローを確認すると、営業キャッシュフローがプラス、投資キャッシュフローと財務キャッシュフローがどちらもマイナスの状態が多いのが分かります。つまり、同社は成熟段階にある企業との判断ができるのです。
そのため、さらなる成長の糸口として、LOHACO事業が重要であることが分かります。
仮にLOHACO事業をヤフーに譲渡するとなると、LOHACO以外の既存の事業で2桁成長を望めるものはなかなかない、と言えるでしょう。

なお、アスクルは大型株であることから、機関投資家の取引割合が高いのが特徴です。
機関投資家はアスクルに対し、LOHACO事業の黒字化を長らく期待していました。
そのため、同事業の黒字化計画の実現性が高いと判断すれば、買いにレーティングを引き上げる可能性が高いのです。
確かにLOHACO事業の売上高は、データセンター火災の影響を受けた時以外は毎期2桁の高成長を続けています。
売上高の伸長に営業利益の伸びがついてきた時に、アスクルは成長転換したと機関投資家は判断し、同社株の買いトレンドが継続する可能性が高まるでしょう。

今回は、アスクルとヤフーの一連の騒動から見る親子上場の問題点を、コーポレートガバナンス上の問題と株価の問題の二つから取り上げました。
次回は、親子上場が解消された場合に、市場はどう評価するか、ということについて取り上げます。

上中康司 拝